引越しや転勤などをきっかけに、これまで10か所以上のバレエ教室に通ってきました。
現在は2児の母として、子どもの習い事やお教室選びについても身近に感じる立場です。このコラムでは「バレエをもっと楽しむための基礎知識」を、経験者・保護者目線でわかりやすくお届けします。
バレエを習うなら、いつかトウシューズを履いてみたい!と思う方も多いのではないでしょうか。
トウシューズは憧れの存在ですが、バレエシューズでの動き以上に、正しい身体の使い方が大切になります。
このコラムでは、大人からバレエを始めた方がトウシューズを目指すときに、確認しておきたいポイントをご紹介します。

トウシューズを履き始める目安
大人からバレエを始める場合、一般的には2〜3年以上継続してレッスンを受けてからトウシューズを履き始めるケースが多いとされています。
ただし、これはあくまで目安です。運動歴や筋力、体格、足首の強さ、レッスン頻度によって、トウシューズを履けるタイミングは大きく変わります。
いろいろなお教室を見てきた私の印象では、少なくとも3年目以上で、定期的にレッスンを受けている方が、先生から声をかけられて履き始めていることが多かったです。
3年ほどで履き始めた方は、細身で柔軟性が高く、バレエのコツを掴むのが早い方でした。週2回はレッスンに参加されていました。
オープンクラスなどでは、自己判断でトウシューズを履けるお教室もあるようです。
ただ、トウシューズは足首や膝、腰などに大きな負担がかかるため、自己判断で始めると怪我につながる可能性があります。
トウシューズの履き方や立ち方を、先生にゼロから教えてもらえる環境で始めることが大切だと思います。
身体の準備とあわせて、順番を覚える力も大切
身体ができていることは必須ですが、レッスン中のアンシェヌマンをしっかり覚え、落ち着いて動けることも大切だと感じます。
アンシェヌマンとは、レッスンの中で行う動きの組み合わせや順番のこと。
初心者のうちはこの順番を覚えるだけでも大変です。
トウシューズを履いているときに振付や順番がわからなくなると、焦って変な方向に体重がかかったり、無理な動きになったりする可能性があります。
そうした小さな動揺が、足首をひねる、膝に負担をかけるなど、怪我の原因となりかねません。
そのため、身体ができあがっているかだけでなく、先生の指示を聞きながら正しく動けるかどうかも、トウシューズを履き始めるうえで大切なポイントです。
43歳からバレエを始めた母の場合
大人になってからバレエを始めた母ですが、レッスンを続ける中で先生から声をかけられ、54歳でトウシューズを履き始めました。
もっと前から声はかかっていたそうですが、子育てが落ち着き週2回にレッスンを増やしたタイミングで始めることになりました。
ある程度の基礎ができていたため、2年後にはトウシューズを履いて発表会で踊ることができました。
大人から始めても、正しくレッスンを続けていけばトウシューズを目指すことはできます。
ただし、年数だけで判断するのではなく、先生に身体の状態やレッスンでの様子を見てもらいながら、無理のないタイミングで進めていくことが大切だと感じます。

国際的な基準はあるの?
世界共通の統一基準があるわけではありませんが、現代のダンス医科学の分野では、トウシューズを履く前の評価として、Pre-Pointe Assessment(プレ・ポワント評価)という考え方があります。
これは、トウシューズを履く許可を出す前に、足首や足裏の筋力、バランス、身体のアライメント、動きのコントロールなどを確認するためのスクリーニングテストです。
国際ダンス医科学学会(IADMS)は、トウシューズを始める前の評価項目として、体幹や骨盤の安定、脚のアライメント、足や足首の強さ・柔軟性、レッスンの頻度などを総合的に見ることが大切だとしています。
なお、このガイドラインは主に子どもを対象として書かれたものです。大人から始める場合は骨の発達段階という要素はなくなりますが、筋力、アライメント、レッスン頻度を総合的に評価するという考え方は、大人にも共通して参考になります。
また、理学療法やリハビリテーションの専門家向けに提供されているオンライン知識プラットフォームに、Physiopediaというものがあります。
エビデンスに基づいた臨床コンテンツを掲載しており、世界中の有資格の臨床家によって作成・レビューされています。
こちらに掲載されているPre-Pointe Assessment(プレ・ポワント評価)でも、後方下腿筋力を確認するテストとして、パラレルでの片足ヒールライズが取り上げられており、動きの質を保ったまま15〜25回程度連続して行えることが基準とされています。
ヒールライズはバレエでいうルルヴェ、一般的なトレーニングではカーフレイズとも呼ばれます。
足をパラレル、つまり平行に開いて、かかとを上げ下げする動きです。
ヒールライズを行うときは、足首やふくらはぎの筋力だけでなく、次のような点も意識したいポイントです。
- 足裏でしっかり床を押せているか
- 体重が母指球(親指と人差し指の付け根あたり)にのっているか
- 膝とつま先の向きがそろっているか
- 骨盤や上半身がぶれずに保てているか
合格ラインの目安としては、最初のルルヴェの高さを保ったまま、正しいアライメントを崩さずに15〜25回程度行えることです。
ここで大切なのは、ただかかとを上げ下げできればよい、ということではありません。
- 最初は高く上がっていても、途中からかかとの高さが下がってしまう
- 足首が内側や外側にぐらつく
- 膝が内側に入る
- 体重が小指側に逃げる
- 上半身が大きく揺れる
このような状態で回数だけこなしても、トウシューズを安全に履くための準備ができているとは言えません。
ヒールライズのやり方
まずは両足で行い、慣れてきたら片足で行いましょう。
- バーや壁、椅子の背などに軽く手を添え、足を肩幅に開きます。
- 母指球(親指と人差し指の付け根あたり)に体重をかけ、かかとをゆっくり高く上げます。
- 上げきったところで1〜2秒キープし、かかとをゆっくり下ろします。



片足で行う場合も、バーや壁に手を添えたまま片足で立ち、同じようにかかとを上げ下げします。
両足で行うよりも負荷が高くなるため、無理に回数を増やすのではなく、正しいフォームを保てる範囲で行いましょう。
このとき、足首が内側や外側に倒れないように注意します。
膝とつま先の向きがそろっているか、骨盤が傾いていないか、上半身がぐらぐらしていないかも確認しましょう。
大切なのはただ回数をこなすことではありません。
正しいフォームで行えているか、次のポイントを確認しましょう。


最大の高さまで上がっているか
最初に上がったフル・ルルヴェの高さを保てていることが大切です。途中でかかとの位置が低くなってしまう場合は、正しい1回としてカウントされません。


足首がまっすぐ保てているか
足首が外側に逃げたり、内側につぶれたりせず、母指球(親指と人差し指の付け根あたり)に正しく体重がのっているかを確認します。かま足になったり、小指側に体重が逃げたりしないことが大切です。


膝が伸びているか
膝が曲がったり、前ももだけに頼ったりせず、ふくらはぎと足裏の力でかかとを上げます。膝とつま先の向きがそろっていることも重要です。


体幹が引き上がっているか
上半身を揺らしたり、お尻を引いたり、反動を使ったりせず、身体を真上に引き上げたままコントロールして動けているかを確認します。
これらのうち1つでもフォームが崩れてしまうと、トウシューズに必要な筋力やコントロールが十分であるとは言えません。
ヒールライズの効果を高めるポイント
効果を高めたい場合は、かかとを下ろしたときに完全に床につけず、地面すれすれで止めると、ふくらはぎや足裏への負荷が抜けにくくなります。
バーに添える手の力を少しずつ減らしていく方法もあります。
最初はしっかりバーを持ち、安定してできるようになったら、指3本、指1本と支えを減らしていくと、バランスや体幹のコントロールも意識しやすくなります。
ただし、ぐらついたりフォームが崩れたりする場合は、無理に支えを減らす必要はありません。
あくまで安全に、正しいフォームを保てる範囲で行いましょう。
まとめ
トウシューズは、バレエを習う人にとって大きな憧れのひとつです。
ただし、トウシューズを履けるかどうかは、「大人バレエを始めて何年目か」だけで決まるものではありません。
大切なのは、足首や足裏の筋力、身体のアライメント、バランス、体幹の引き上げなどが整っているかどうかです。
プレ・ポワント評価では、片足ヒールライズを15〜25回程度、正しいフォームで行えることがひとつの目安とされています。
かかとの高さを保てているか、足首がまっすぐか、膝が伸びているか、反動を使わずにコントロールできているかを確認しましょう。
早く履いてみたいと思う気持ちは、とても自然なことだと思います。
ただ、バレエを長く安全に楽しむためにも、必ず先生に相談しながら、自分のペースで少しずつステップアップしていきましょう。
憧れを目標にしながら、まずはバレエシューズでのレッスンをていねいに積み重ねていくことが、トウシューズへの一番の近道です。
焦らず続けていく時間も、トウシューズにつながる大切なプロセスになるはずです。

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